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公益財団法人 新潟市産業振興財団北京代表処 新潟市北京事務所
 
 
No.58 中国レポート
2017-02-07

 議論好きな北京っ子の話題の中心は依然として特朗普(トランプ)だ。まるで総トランプ評論家状態だ。経済面から見ると、ほぼ全ての人は悲観的である。トランプが雇用を強調し、貿易赤字をもたらす国を目の敵にしていることを考えれば、攻撃の矛先は中国に向かってくるのは必然だと考えているからだ。実際、米国の貿易赤字は中国がダントツに多い。2015年で見ると、米国の貿易赤字のうち各国の占める割合は、メキシコ8.1%(606億ドル)、日本9.2%(689億ドル)だが、中国は49.2%(3870億ドル)と約半分を占める。
 米国通商代表部(USTR)は1988年、「不公正」な貿易相手国に制裁を科す「スーパー301条」を導入し、1989年にインド、ブラジル、日本を対象国とした。激しい「日米経済摩擦」が起きたのはこの時期である。ところが中国が急速に経済成長を遂げ、その中でも輸出が成長のエンジンとなったが、主要な輸出先(稼ぎ先)」は米国とEUであった。トランプはこの膨大な対中貿易赤字を放って置くはずがないと多くの人は考えている。トランプがスーパー301条を中国に適用すれば、中国の対米輸出、ひいては中国の貿易全体が大きなダメージを受けることになる。それでなくとも、ここ数年中国の貿易額は低迷を続け、2016年度は対前年比マイナス6.8%となり、2年連続減となった。ただ貿易というのは、輸出があり輸入がある。どちらも需要があって成り立っている。もしトランプが国民に、米国製の商品だけ買えというなら、米国民は中国や他の発展途上国から入ってくる安価な服、食料品、雑貨などを買えなくなり、負担が大きくなる。中国は時々、対米貿易の不均衡を緩和させるため、数百機の民用航空機を買っているが、中国が買わなくなれば、米航空機メーカーは大きな打撃となるだろう。また中国は大量の米国債を買っている。世界1の外貨保有高のうち約7、8割は米ドルだ。これらを大量に放出したら、米国経済は大混乱となる。要するに今後米中経済摩擦、経済戦争は激しさを増すだろうが、経済戦争をすれば互いに大きな傷を負うということだ。
 一方、国際政治や安保、軍事面から見る人の中では、意見が分かれる。ある人は、トランプの米国になり、対中国圧力は増すだろうと言う。ある学者は「トランプは内向きと言われるが、それはNATOや日米、米韓同盟を軽視し、弱体化させるものではない。それらを強化するための財政負担をNATO加盟国や日本、韓国により多く負担させるということだ」と言う。ある学者はもっと深刻に考えている。「トランプは、台頭する中国を抑えるため、アジアでは日本プラス韓国を利用しようとし、中国包囲網にロシアをも引き込もうとしている。IS殲滅についてもロシアの力を利用しようとしている。米国にとって、これがコスト削減のやり方だ。日本がこれに賛同し、積極的に同調すれば、経済的負担は膨大になるだろう」と言う。以上のような意見の一方で、トランプの「アメリカファースト」は米国内を分裂させ、西側の結束を乱し、結果的に中国に有利に働くと見る人も多い。そこで、今インテリの間で議論が盛んなのは、中長期的に見て、中国は米国にとって代わって「世界のリーダーになれるか」という問題だ。
 この「世界のリーダー、米中交代論」の議論は、国際社会でも最近脚光を浴びてきた。「そんなことはあり得ないし、考えたことも無い」と言うのは日本だけで、実現の有無は別にして、議論としては広がっている。ドイツ連邦議会外交委員長のノルベルト・レットゲンは、日経新聞のインタビューで「トランプの世界観」を批判し、次のように述べている。
 「私たちは西側の結束のために闘わなければならない。さもなければ、グローバル化時代の世界を形成する役割をやがて、中国に明け渡すことになる」。
 昨年11月25日付けの英「フィナンシャルタイムズ」は、トランプの米国がTPPを離脱し、地域協力を拒否すれば、中国が推進するRSEP(東アジア地域包括的経済連携)が息を吹き返し、やがて①中国がグローバリズムの旗手になるかもしれない。②メルケルが西側のリーダーの後継者になるだろう、と書いた。米「ピュー・リサーチセンター」の最近の世論調査によると、このまま事態が進めば、やがて中国が米国にとって代わるという意見が仏、独、豪などの世論調査で50%―60%を占めた。この世論調査によると、アジアでは意見が二分され、インドネシア、フィリピン、ベトナム、日本では否定的な意見が多く、他の国では5割前後か、それ以上が肯定的だ。日本は肯定的な意見が10%以下と極端に低い。
 では肝心の中国はどうかというと、この1月にスイスのダボスで開かれた「ダボス会議」での習近平の基調演説から中国の姿勢が読み取れる。習はトランプを名指し批判こそしなかったが、貿易の保護主義、国際経済の反グローバリズム傾向を批判し、中国は自由貿易とグローバリゼーションの擁護者、推進者だと高らかに宣言した。ダボスに集まった各国のグローバルエリートたちは、複雑な思いながら、習演説を歓迎した。それは米国が保護主義、アンチグローバリゼーションに走るなら、世界の自由貿易とグローバル経済擁護、促進に多大な影響を及ぼすことのできるのは中国しかないと、皆がわかっているからだ。では習近平はダボスで、世界のグローバル化推進の「新旗手宣言」をしたのか。この問題に対し、中国国内では議論がある。大きく分けると次の3つの意見である。①中国はまだ発展途上にあるが、すでに世界経済をけん引する旗手になった。②将来、中国は旗手となるだろうが、現在はまだ力不足で、とても旗手とは言えない。③現在も将来も、中国が一国で世界経済をけん引するなどあり得ないし、それを目指すのは間違いである。
 この問題について、昨年11月21付「環球時報」(中国共産党機関紙「人民日報」の国際版)は、「中国は米国に代わって『世界のリーダー』になれるのか」と題する興味深い社説を発表した。これが現時点での中国指導部の公式見解と言えるだろう。内容を箇条書きにまとめてみる。
 冷戦後の世界は、①米国の統治下にあり、大きな枠組みは米国が設計し、守ってきた。②近い将来米国が「世界のリーダー」を放棄することはありえない。③過去において、米国は戦線を過度に拡大し、「唯我独尊的リーダー」になろうとしたが、それには力不足であった。③米国は指導力を発揮できる分野を「えり好み」し、そこに集中的に力を注ごうとしている。④ある分野において、中国は「リーダーシップ」を発揮する余地が生じるかもしれないが、問題は中国がそれを望むか、またその準備ができているかだ。⑤中国の総合的実力は、まだ米国には遠く及ばず、「米国にとって代わる」など不可能である。⑥しかし、中国の国力が増し、世界の権力構造が徐々に変化するのは避けられない。中国が徐々にグローバルガバナンスに参加するのも、長期的には自然なプロセスで、中国は誇張する必要はなく、また回避することもできない。⑦今後の世界ガバナンスは、中国と米国が必ず協力しなければならず、第2の選択はない。
 中国は第2の経済大国になってから、米国に対し一貫して「新しい大国関係」の構築を言い続けてきた。少なくともアジア太平洋において、今や中国を無視することはできず、この地域の事柄について、米中は協力し、共同で責任を持つべきだという意味だろうが、オバマ政権は一貫して拒否してきた。言葉を変えれば、中国は米国に「対等な関係」を求めだしたわけだ。中国にとってベストな状況は、アジア太平洋から米国を追い出し、中国の覇権を打ち立てることではない。米中が協力して、共同でこの地域を「管理」することなのである。これに対し、トランプはどう対処するのか。まだ米国には到底及ばないとしても、これだけ力をつけた中国と、正面から対抗すれば、膨大なコストがかかる。安易に台湾問題を取引材料に使えば、取り返しのつかない危機的状況を生み出すかもしれない。対トランプで、中国はまだ手探り状態だが、トランプもまた、対中国戦略をどうするか悩ましいところだろう。止
 西園寺一晃 2017年1月29日


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