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北京市内の様子
公益財団法人 新潟市産業振興財団北京代表処 新潟市北京事務所
 
 
No.59 中国レポート
2017-03-31

 3月5日から15日まで、北京において全国人民代表大会(全人代)が開かれた。全人代は日本の国会のようなもので、毎年3月に開かれ、向こう1年間の政治、経済、外交、国防などの方針、予算が決められる。重要会議だが、今年の全人代は例年にも増して国内はもとより世界的に注目された。理由は以下の3つである。
 (1) 中国経済が減速を続ける中、昨年から始まった第13次5か年計画の初年度の結果が出、それをもとに今年の経済政策をどう策定するのか。
 (2) 米国のトランプ政権が発足し、保護貿易の傾向が顕著となり、米国の対中貿易赤字の是正圧力が強まる中で、中国はどう対応するのか。
 (3) 今年秋に開催が予定される中国共産党19回大会(習近平第2期体制の発足)を睨んだ新たな政策が出るのか。
 全人代開催に先立ち、2016年度の経済統計が発表されたので、主要なものを挙げてみる。
 GDPと対前年比伸び率 744127億元  +6.7%
 GNIと対前年比伸び率 742352億元  +6.9%
 1-3次産業比率    1次8.6% 2次39.8% 3次51.6%
 対前年比消費者物価指数 +2.0%
 公共予算(一般会計予算)15兆9552億元 対前年比+4.5%
 外貨準備        3兆0105億ドル 対前年比-6.2%
 工業生産額と対前年比伸び率  24兆7860億元 +6.0%
 固定資産投資と対前年比伸び率 60兆6466億元 +8.6%(実質)
 食糧生産高と対前年比伸び率  6億1624万トン -0.8%
 輸出入総額と対前年比伸び率  24兆3386億元 -0.9%
 輸出            13兆8455億元 -1.9%
 輸入            10兆4932億元 +0.6%
 対各国・地域輸出総額
 米国    2兆5415億元 ±0.0%
 EU    2兆2369億元 +1.3%
 香港    1兆9009億元 -7.6%
 ASEAN 1兆6894億元 -1.9%
 日本      8529億元 +1.3%
 国民1人当たり可処分所得 2万3821元(対前年比+6.3%)
 さて昨年、第13次5か年計画は成長率減速の中でスタートしたが、初年度結果の数字を見て中国首脳部はホッとしているようだ。計画の数値をほぼクリアできたからである。但し貿易を除いてである。中国にとって貿易は重要な意味を持つ。特に輸出はこれまで高度成長をけん引してきた。ここ数年貿易が低調だったが、昨年も低調さを脱することができず、対前年比マイナスとなった。中国は目下これまでの「外需型成長」から「内需型成長」への転換を図るべく経済構造改革の最中だが、輸出が重要なことには変わりがない。2016年の貿易は上記表の通りだが、低迷の主な理由は世界経済の低迷と中国における人件費の急上昇などによる競争力の低下である。この面で中国は依然として「中進国のワナ」から完全に脱したとは言えない状況にある。
 中国経済は、かつてのような二桁高度成長はもう望めないが、減速しながらも安定成長を維持している要因は豊富な外貨準備、物価の安定と消費の堅調さ、雇用の安定である。李克強首相は全人代の「政府活動報告」の中で、「年間の経済・社会の主要な目標は滞りなく達成され、第13次5ヵ年計画(2016年―2020年)は好スタートを切った。経済は鈍化から安定へ、安定から好転へ向かった」と胸をなでおろした。
 一方で李克強首相は決して楽観視していない。「政府活動報告」には次のようなくだりもある。「われわれが直面したのは、世界経済・貿易の伸びがこの7年で最低となり、国際金融市場の変動が激化し、地域と世界的な挑戦(試練)が突発・多発する外部環境であり、直面したのは国内の構造的問題が際立ち、リスクの禍根が顕在化し、経済の下振れ圧力が増すという幾重もの困難であり、直面したのは改革が堅塁攻略期に入り、利害関係の調整が深まり、社会の安定に影響する要因が増えるという複雑な局面である」。
 李克強首相は今年の主要発展目標の中で、幾つかの具体的数字を挙げた。
 GDP成長率:対前年比+6.5%前後
 GPI上昇率:3%前後
 都市の新規就業者数(雇用):1100万人以上
 都市の失業率:4.5%以内に抑える
 個人所得:経済成長率とほぼ同じペースで増加
 広義通貨供給量(M2)残高と社会融資規模の伸び率:12%前後
 苦労しながら何とか安定成長を維持しているのが現状だが、不安定要因が多々あるのもまた事実である。そこに保護主義を掲げ、貿易不均衡の是正を叫ぶトランプ米大統領の登場である。中国経済の不安定要因が増したわけだ。事実、米国の貿易赤字のうち、半分近くは対中貿易によるものである。
 ただ中国にも言い分がある。1つは、中国や発展途上国の安い製品の対米輸出は米国民を潤しているということである。米国が発展途上国からの安い製品を入れず、全て国産にしたなら、米国民は猛烈に高い製品を買わされることになる。その一方で、人件費が高く、科学技術の発達した先進国は、高付加価値の、先端技術を使った高度な製品を発展途上国に出すことで貿易の均衡を図ることになる。これが先進国と発展途上国の分業だ。中国のもう1つの言い分は、米国の対中貿易不均衡は米国の責任でもあると言う。米国は中国の対米輸入が少ないと言うが、米国は先端技術を使った製品の対中国輸出を禁じている。その結果、中国は米国から買うものがあまり無いのだ。これを解禁すれば、米中貿易はすぐにも均衡を実現できると中国は主張する。中国のある経済学者は「米国はわれわれの必要なものを売らないで、中国は米国のものを買わないと言う。自己矛盾ではないか」。
 今回の全人代は、当然代表たちが米国の保護主義を意識し、危機感を持っていたわけだが、米国を非難または刺激するような議論は一切なかった。極力米国を刺激せず、何とか協調の道を探りたいというのが中国の本音である。北京市民の間にも、反トランプ感情はあまりない。全人代会期中、中国の王毅外相は記者会見を開いたが、その中で王外相は対米関係について次のように述べた。「双方の緊密な意思疎通と共同の努力を経て、中米関係は前向きの方向へ穏やかに移行し発展しつつある。・・・両国元首の共通認識に従い、衝突せず対決しない、相互尊重、協力、ウインウインの原則を守る限り、中米両国は完全に大変良い協力パートナーになることができる」。非常に抑制的な、希望的発言である。全ては4月に予定されているトランプ・習近平会談の結果で、中国は今後どのような対米政策を採るのかを決めるのであろう。
 なお、李克強首相の「政府活動報告」の中で、「習近平同志を中核とする党中央」という枕詞が目立った。多くの北京市民は反腐敗の手を緩めない習近平に好感を持ち、その習近平がほぼ党内を掌握したと認識している。秋の党大会は習近平主導で開かれるのは間違いない。(止)


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