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北京市内の様子
公益財団法人 新潟市産業振興財団北京代表処 新潟市北京事務所
 
 
No.63 中国レポート
2017-12-06

この2か月、中国では内政、外交とも大きな出来事が続いた。先ずは習近平体制の今後を占う第19回党大会が10月18日―24日、北京で開催された。25日には大会で選出された中央委員による第1回総会が開かれ、最高指導部人事が決定、習近平「1強」体制が確立した。
 外交では11月8日、トランプ米大統領がアジア歴訪の3番目の国として中国を訪れ、中国は異例の歓待をした。トランプ訪中に先立ち、中国は対韓国関係の改善に着手、米軍の地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)問題を残したまま(継続審議)、両国は関係改善で一致した。11月10日からベトナムで開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)では、安倍晋三首相、習近平主席による日中首脳会談が実現し、両国は関係改善で一致した。同月16日からマニラで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議では、安倍晋三、李克強による日中首相会談が持たれた。また同月18日、中国は習近平特使として宋濤(党対外連絡部長・党中央委員)を北朝鮮に派遣、朝鮮半島の非核化について、米朝会談の根回しをしたと思われる。
 北京の圧倒的多数の人は、これら重要な出来事は全て習近平のイニシアチブで行なわれたと認識している。ある学者は「ここのところ、習近平主席はほとんど寝ていないだろうに、超人的な体力、精神力だ」と言った。一国のリーダーの基本的条件は健康で、心身ともタフであることだ。その点、多くの中国人は習近平に安心感を持ったと言える。
 習近平体制はまた一段と強固になったという点でも、多くの人の意見は一致している。中国の権力闘争について、日本では「上海閥」、「青年団閥」、「太子党(紅二代)」という分け方で論じられてきたが、習近平体制の下では、この図式が通用しない。習近平の父親は、かつて周恩来の下で副首相を務めた習仲勲だ。その意味で習近平は「太子党(紅二代)」に属するが、習近平はその「太子党(紅二代)」人脈と距離を置いている。「反腐敗」では、どの閥であろうと徹底的に摘発した。党、軍の人事では派閥均衡の体制は採らなかった。党の主な人事では、地方からのタタキ上げを多く登用した。この徹底した反腐敗姿勢と人事の公平さが民衆の喝采を呼んだ。北京の情報通たちの分析をまとめると、習近平体制が強固になった源泉は、①これまで「聖域」として、誰も本格的に手がつけられなかった軍の改革を徹底的にやり、軍人事を刷新し、「党が鉄砲を指導する」原則を再確認した。②虎(腐敗した高級幹部)も蝿(腐敗した下級幹部)も叩くという反腐敗の取り締まりを、「聖域」を設けずに徹底的に推進した。③派閥均衡の人事を廃止し、党人事を刷新した。④将来に向けての青写真を示した。⑤民衆の幅広い支持、であろう。もう1つは「外交、対外戦略」だ。中国の国際社会における影響力向上は、中国の国力増強の結果で、これまでの積み重ねであり、習近平の手柄だけではない。しかし、中国にとって特に重要な対米関係は、複雑な要素を孕みながらも悪くない方向に向かっていると多くの人は見ている。その面で習近平の貢献は大きいと多くの人は思っている。
 中国は用意周到な準備の下でトランプ米大統領を迎えた。紫禁城(故宮)を貸し切っての歓迎など、これまでの外国要人の中で最高の歓待をした。トランプは訪中前に日韓を訪問したが、特に日本では安倍晋三との間で「開かれたインド太平洋」構想を確認、日米に豪印を加え、中国に対抗するという安倍の戦略に乗った。さらに北朝鮮問題で中国に一段と圧力をかけさせる事で一致した。トランプは中国訪問時、北朝鮮問題と貿易不均衡問題で「中国を厳しく責めるだろう」と予想されていた。また中国の嫌がる「南シナ海」問題を取り上げるかもしれないと思われていた。しかしトランプは、実際には中国で予想外の態度を示した。米中首脳会談冒頭、トランプは「米中関係は最重要」と言い、「(北朝鮮問題の)解決法はあると信じている。両国は世界の問題を解決する能力がある」とし、北朝鮮問題での過激な発言はほとんどしなかっただけでなく、中国の北朝鮮に対する圧力が足りないと批判することもしなかった。さらに「我々の問題だけでなく、安全保障など世界が抱える問題の解決で協力していきたい」と述べ、中国の役割に期待を示した。「開かれたインド太平洋」構想などまるで無かったように、全く触れず、南シナ海問題への厳しい追及もなかった。米中間の貿易不均衡問題に至っては「中国を責めるつもりはない。この止まらない貿易赤字を許した過去の(米国の)政権を責める」とまで言った。トランプのこれらの態度について、米ニューヨークタイムズ紙は「トランプ氏は世界のリーダーシップを中国に譲ろうとしている」とするコラムを掲載した。
 一方の中国は、ビジネスマンであり、最大の関心事は貿易の均衡と雇用であるトランプの喜ぶ「土産」を数多く用意した。中国企業の米国に対する巨額な投資と米国製品の大量購入だ。例えば国家能源投資集団によるシェールガス開発への837億ドルに上る投資(ウェストバージニア州)、中国石油化工集団による液化天然ガス事業への430億ドルに上る投資(アラスカ)などで、これは多くの雇用も生むことになる。また中国航空機材集団による米ボーイング社の旅客機300機購入(約370億ドル)、中国スマホ大手「小米」などによる米クアルコムからの半導体購入(約120億ドル)、中国京東集団による米国産牛、豚肉の大量購入(約12億ドル)などを含む、総額約2535億ドル(約28兆7700億円)の「豪華手土産」だ。トランプ訪中には、ボーイング社、GE、クアルコムなど米国の大手企業約30社のトップが同行したが、トランプは米財界のお歴々に良い恰好ができたわけである。
 しかし中国もしたたかだ。一方的にトランプにサービスしたわけではない。習近平は新たな中国経済の成長戦略の中心にイノベーションを置いている。過去において中国は多くの外資を受け入れ、労働集約型製造業の「世界の工場」となったが、この外資導入の体質を先端的製造業中心に転換しようとしている。そのためには欧米、日本などから先端技術の導入が必要だ。特に先端技術の中国への移転に厳しい態度を採っている米国に、中国マーケットの巨大さ、将来性を見せるのは重要である。今回の取引だけでは一過性で終わる。米国企業が中国マーケットから大きな利益を持続的に上げるためには、先端技術の中国移転が不可欠であることを暗に示しているのである。さらに、今回の「手土産」は全て確定済ではないという事だ。中には「覚書」、「意向書」的なものも含まれ、取引が成立するためにはこれから具体的な交渉が必要なのである。ある学者が言うように「今後米国が中国に理不尽なことをすれば、これらビジネス案件をキャンセルすれば良い」というわけだ。
 思惑があるとは言え、中国としては最大のサービスである。これは、習近平の地位が確固たるものになった事を表している。習近平の地位が不安定なら、政敵たちは「米国に媚びている」として習近平を責めるであろう。これは習近平の「余裕を持った米国へのサービス」なのである。これらを見て、多くの中国人はある種の心地良さを感じた。それは米国が中国を「対等に扱った」と感じたからであり、「まだ米国には及ばないが、確実に中国は米国と肩を並べつつある」と確信したからである。つまり習近平の目指す、米中の「新しい大国関係」が着実に構築されつつあると感じたからだ。国際政治が専門のある研究者は、「今回のトランプ訪中は、中国の国際社会における地位を内外に示した。中国は米国と敵対することはできないが、同じく米国も中国抜きで重要な国際問題を解決することは難しい事を世界に知らしめた」と言っていた。
 11月20日、米国は北朝鮮を「テロ支援国家」に再指定し、翌21日には追加制裁を発表した。これは習近平が宋濤を特使として北朝鮮に派遣し、北の核、ミサイル開発にブレーキをかけ、対米交渉を促したが、金正恩委員長に会うことも出来ず不調に終わったのを受けて発表したものだろう。問題はこの制裁対象の中に中国企業家1人と企業3社が入っている事である。中国は内心不快だろうが、これを以って習近平、トランプ会談の成功に水を差すことはしないだろう。米国も22日、国務省のナウアート報道官が「中国の協力が弱まるとは考えていない。米国と中国は良好な関係を築いており、それが変わることはない」とフォローした。
 中国は対北朝鮮の国連安保理決議を完全に順守、履行することを決意している。そのために中朝関係が損なわれるのは織り込み済だ。2016年9月には、この決議に違反し、北朝鮮に戦略物資(ミサイル関連部品)を密輸したとして、女性起業家馬暁紅(44)が逮捕された。馬暁紅は遼寧鴻祥実業発展有限公司会長で、2012年には「優秀女性企業家」に選ばれ、遼寧省全人代代表にも選出された有名な実業家で、れっきとした共産党員である。この事件で、遼寧省の党、政府の幹部数十人が連座したと言われている。中国は国連安保理の決議に従って、北朝鮮への石油精製品の輸出を制限し、繊維製品の禁輸、北朝鮮が中国内で設立した合弁会社を閉鎖するなど、義務を履行している。習近平の特使宋濤が北京に戻ると、中国は北京―ピョンヤン航空便を停止した。中国の対北朝鮮制裁は、北朝鮮に大きくのしかかっているとみられる。中国税関の発表では、この10月の、北朝鮮の対中国輸出は前年同月比62%減となった。北朝鮮の中国に対する憎悪は日増しに募っていると思われる。宋濤に金正恩が会わなかったのもその表れだろう。この件について、習近平の面子が潰れたと見るのはあまりにも単純だ。中国にとって北朝鮮がどう思うかは大きな問題ではない。問題は国際社会がどう思うかなのである。中国はやることはやっている、なのに北朝鮮はけしからんと国際社会が判断すれば、中国にとって成功なのだ。中国にとって一番嫌なのは、中国は北朝鮮に対し決定的影響力を有しているのに、圧力をかけていないと言われることである。実際には、中国の北朝鮮に対する影響力は極めて限定的なのだ。
 北京市民を含めた中国国民の対北朝鮮感情は過去最悪だ。「中国は長きにわたり巨額な援助をし、忍耐に忍耐を重ねてきたのに、朝鮮半島の非核化問題で、北朝鮮は全く中国の言う事を聞かない。米中とも、北朝鮮の体制を転覆させようと思っているわけではない。つまり非核化は、北朝鮮の体制維持、経済再建にとって有利なのに、敢えて北東アジアの平和を壊し、自らを滅ぼす愚かな核遊戯に走っている」。これが平均的中国人の本音である。
 習近平は党大会を最高の形で乗り切り、トランプ訪中による米中首脳会談でも大きな得点を上げた。この影響はすぐに出た。アセアン首脳会議では、南シナ海問題での対中批判が一気に萎み、同問題での対中「懸念」という文字さえ消えた。一方で、内向きになった米国は何かあった時、自分たちを守ってくれないという対米不信感が募り、もう一方では中国経済との連携が不可欠であるとの現実論が強まった。
 確固たる地位を築いた習近平体制は、「一帯一路」構想の実現を目指し、周辺諸国との関係改善に乗り出すだろう。悪化した対韓関係の改善にはすでに着手した。中国にとって、この地域で最重要なのは対日関係である。日本との間には幾つも複雑な問題が存在する。主に歴史認識問題と東シナ海に浮かぶ島々をめぐる領土問題である。しかし、これらはすぐには解決しようがない。であるなら、中国側としては①首相、官房長官、外務大臣が靖国参拝を行わない。②尖閣(中国名「釣魚島」)については現状の変更を行わない。これが守られるなら、これらの問題を抱えたままでも未来志向で、経済交流を中心とした日中関係の発展を促す方針だろう。周辺諸国との関係が安定したものであるのが、「一帯一路」構想実現の必須条件だからだ。
 最近世界規模で「『中国崩壊論』の崩壊」が話題になっている。中国は様々な課題を抱えているが、近い将来米国と肩を並べる大国に成長するのを止めることはできない。「開かれたインド太平洋」構想に拘り過ぎ、日米豪印による「中国封じ込め」に偏り過ぎると、日本は米国に梯子を外されるかもしれない。オーストラリア、インドにしても、安保問題では中国に警戒心を抱くも、その一方で中国との経済的相互依存関係を破壊するのは自殺行為だ。豪印が総力を挙げて「中国封じ込め」に動くことはあり得ない。今こそ日本は将来を見据えた、巧みな対中国政策、戦略が必要だ。(止)。
 2017年11月26日 西園寺一晃


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